将軍博士の空想科学 #1
この世は謎で満ち溢れている。
そう考えたことはないだろうか。
其れは解決されたかのように思える現象。
其れは対策されたかのように思えた事象。
文明は更なる発展を遂げ、
地球はより強固な星としての存在証明を得た。
神との乖離、人の手による世界の開拓。文献にも残しきれぬ程の長い時間をかけ、我々人類は次の世代へと託し続けた結果として“現在”と言う名の人の手による結晶体の報酬を勝ち取ったのだ。
……自己紹介が遅れてすまない。私はヒノモト帝国、ヒノモト第三部隊に属する研究員。名を──将軍。あぁ、便宜上そうするとしよう。具体的なことを話せはしないが、神秘の隠匿に関わる研究を進めていてね。本名を語れぬ者となってしまったのだ。許してほしい。
さて、君がこの書記を読んでいると言うことは……私は実験に成功したのだろう。なればこそ、私は綴らねばならない。
──この世界の謎について。
言わずもがな、謎の根源に至るつもりはない。根源に至る試みは精神の崩壊を招き、倫理を消失させる。故に語るのは“謎の断片”だ。
仮に君が、その謎の断片から根源を解決することが果たすことができたのならば、君も得ることになるだろう。
限りなく膨張し続ける空を見通す瞳、遍く星を観測する不変の瞳。───“星の千里眼”を。
さて、前置きが長くなってしまったが、これより本題に入っていこうと思う。
今回、君が解き明かす謎は───確率のパラドックス。
パラドックス、この言葉は誰もが一度は耳にしたことがあるはずだ。
……ふむ、例を一つ出すとしよう。
私が好きな映画の一つに「映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険」と言うものがある。
簡単なあらすじを説明すると、万年落ちこぼれの野比のび太が“もしもボックス”と言う名のひみつ道具、基。神器を使用して世界の在り方そのものを変えてしまう。しかし世界が変わっても尚、己が落ちこぼれの運命を覆せなかった野比のび太が再度もしもボックスを使用し、現実へと戻ろうとするが、そのもしもボックスは破壊されており───。と言うのが「映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険」の導入だ。そう、この映画では“IFの世界”を扱っている。これを現代量子力学で言い換えるならば“並行世界”とも言える。もしもボックスを使った世界と、もしもボックスを使わなかった世界。たった一人の、たった一つの選択によって、この世界は二つに分離したのだ。故に存在する野比のび太は二人となるが、しかして並行に存在し続ける二人の野比のび太が互いに干渉し合うことはない。これは有名な実験、シュレディンガーの猫とも非常に良く似ていると言えるだろう。「映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険」が気になったのならば視聴をお勧めしよう。最も“現在”の人類には刺激が強すぎる映画かも知れないがね……。パラドックスによる精神崩壊を起こさぬよう、精々気をつけたまえ。
……少し本題から逸れてしまったので、軌道修正をしよう。パラドックスについて、なんとなくは理解をしていただけたかな?
そこで今回の謎「確率のパラドックス」だ。
私の世界では、この謎を紐解いた決定打となる一つの問題がある。それを今回は君に提供しよう。問題は実にシンプル。
「とある家族には二人の子供が居て、一人は男の子。さて、もう一人の子供が男である確率は何%だろうか?」
見ても分かるように単純な問題だ。
しかし、私の世界では論争が耐えることはなかった。何故だが分かるだろうか?
……あぁ、その通り。ご明察だ。
単純に考えた場合、男女が生まれてるくる確率は50/50なので、もう1人が男の子である確率も当然ながらそれと同義だ。故にこの問題に対する答えは50%……つまり1/2となるのは言うまでもない。
……それが旧人類の答案だった。
だが、もう一度冷静に良く考えて欲しい。
果たして本当に、この問題に対する答えは50%なのか。
もしも未だ君が、50%だと思っているのならば、致命的な見通しがある。もう一度、良く考えてみてほしい。
その通りだ。
此処で重要となるのは「兄弟姉妹」が産まれてくるパターンだ。
兄弟姉妹には四つのパターンが存在する。
①両方が男の子である。
②両方が女の子である。
③年上の男の子に、年下の女の子。
④年上の女の子に、年下の男の子。
以上が絶対的な兄弟姉妹の確定条件となる。
ではここで、問題に戻ってみよう。
「一人は男の子」と言う絶対条件が存在する以上、四つのパターンの内②に該当する「両方が女の子である」の可能性は無くなるのは自明の理。
そうすると此処で残った選択肢は以下の三つとなる。
①両方が男の子である。
③年上の男の子に、年下の女の子。
④年上の女の子に、年下の男の子。
即ち、もう一人の子供が男である確率は1/3となり、問題に対する正解は33.33%となるわけだ。
単純な50%だろうと思っていた己の感覚との乖離に唖然となる。
これこそが「確率のパラドックス」だ。
実に面白い。
だがしかし!
これは問題の内容を少し変えるだけで、正解が変わってしまうのだ。
「とある家族には二人の子供が居る。その家から偶然にも男の子が出てくるのを見かけた。では、もう一人も男の子である確率は何%だろうか?」
先程の問題の解き方と同じく、正解は33.33%だと思うかも知れないが、それは否である。
この場合は50%となってしまうのだ。
たまたま出てきた子供が男の子の場合、その子がお兄ちゃんだとすると、もう一人の子供は弟か妹の二通りだ。
しかし、その子が弟だとすると、もう一人の子供はお兄ちゃんか、お姉ちゃんの二通りとなる。
どちらにしても、もう一人が男の子である確率は1/2……つまり50%になると言うわけだ。
問題の出し方を少し変えるだけで、答えが全く違ったものになるという不思議な問い。
そう、これこそが「確率のパラドックス」なのである!
……私としたことが、謎の断片の真実。その全てを余すことなく語ってしまったか。これでは私の目的、旧人類の更なる文明進化……。いや、ここで語るのはよしておこう。
───最後に、この書記を見ている者へ。
第一の謎。満足頂けただろうか。私としてはもう少し哲学的なことを話したかったのだが、第一の謎とあっては、これぐらいが及第点だろう。
私は君の進化を期待している。そして同時に警鐘を鳴らす者である。努努忘れるな、人は全知にはなれない。そして、人は───(これより先は文字が掠れて読めない。)
「緊急通信、緊急通信!此方エリア51、穹■■生命体スペース・■■■、謎の■■を■■、お、おい、よせ、なにを────ッ!」
「■■■■■■■■■■■?」
「ち、違う、我々は、更なる文明の進化のため、お前を、宙からの来訪者を■■したまでだ、なにも、間違ってなど、こ、ここは、ち、地球なんだ────!」
「……■■■■■■■。」
「構ってられるか、もう良い、発砲を許可する!」
「しかしッ!宙からの来訪者、星の理を覆す文明の塊、星の存続に関わる大事な被検体なんだぞっ?!」
「ふざけるなッ!星の寿命よりも今を生きる我々の生の方が重要であるッ!」
「■■■■■■─────!」
「■■、■■■■……■、■■…………。」
「■■…………………………………………。」
「は、はは……なんだ、こんな呆気ないのか。これで我々の■■も再び机上の空論となったわけか……。」
「お、オイ、なんか、こいつ……発光、していないか……?」
「……ッ!ま、まさか……ッ!」
「直ちに全シェルターを───────!」
「───────────────────。」